2011年6月27日月曜日

七夕の短冊と目標設定

どこにでもある郊外の大型スーパー。この前の日曜日の夕方、家族と一緒にショッピングに出かけたのだが、週末だけあって、多くの買い物客で混みあっていた。もうすぐ七夕なので、お約束のように、大きな笹飾りがレジの後に飾られていた。

人材育成担当は自分の夢や目標を設定し、紙に書き出すことが大好きな人種だ!もちろん、私もそのひとり。自分の夢や目標は財布に入れて常に持ち歩くことにしている。ハーバード大学のあるリサーチでは「明確な目標を設定している人」は3%もいないとのことらしいが、そういう意味では人材育成担当は特殊な人種だ。この前、ある人材育成担当者が集まる国際会議で「個人的に目標設定を定期的に行っている人は手をあげてください」の問いに、会場にいた人ほぼ全員(約200人)が一斉に手をあげた。

話を戻そう。笹飾りの短冊に自分の目標を書こうと思い、笹飾りに近づいた。すると、幾つかの短冊が笹から床に落ちていたので、それらを拾って笹に戻そうとした時、短冊に何が書かれているのかが見えた。そこに書かれていたのは「モデルになりたい」「サッカーがうまくなりたい」「幸せになりたい」などの夢だった。ほとんどの夢は漠然としていて、SMARTゴールになっていなかった。つい目標設定というとSMARTにしてしまう。

SMARTとは何かをおさらいすると、Specific(具体的)、Measurable(測定可能な)Achievable(達成可能な)Related(関連性のある)Time-bound(時間的に制約された)の最初の文字を取ったもので、企業研修で良く取り上げられる目標設定のやり方だ。

それでは、「サッカーがうまくなりたい」をSMARTにしてみるとどうなるだろう。「○×中学校のサッカーチームのフォワードとして、次の区民大会で5点をあげたい」これならより具体的で実現可能性が高まる。


ちなみにイチローの小学校の時に書いた作文は下記のようなものだった。よりSMARTに近いと思いませんか?


「僕の夢は一流のプロ野球選手になることです。そのためには、中学・高校で全国大会へ出て、活躍しなければなりません。活躍できるようになるためには、練習が必要です。1週間中、ともだちと遊べるのは、5~6時間です。そんなに、練習をやっているから、必ずプロ野球選手になれると思います。」

そもそもなぜ企業が目標設定・管理に力を入れるのか。その理由は幾つもある。たとえば社員間の処遇に差をつけるため(給与の公正な分配)、社員教育のため(目標達成に向けて努力することで社員の能力が高まる)、ビジョンや戦略と組織構成員の行動を連動させるため(組織としての一体感を保つため)など。しかし、私が考えるもっとも大きな理由は、目標を正しく設定すれば実現可能性が飛躍的に高まるからだ。

優秀なマネージャーはチームとそのチームメンバーの目標設定にとても力を入れる。難しすぎず、易しすぎない最適な目標をチームメンバーの個性や能力を見ながら設定するのは容易ではない。また、目標はチームメンバーがやる気をもって取り組めるものでなければならない。そして、目標は必ずSMARTにする。この目標設定が上手な組織は強い組織である。

私が短冊に何を書き込んだかは、みなさんの想像にお任せする。もちろんSMARTゴールになっている。

2011年6月25日土曜日

人事は喫煙コーナーに直行せよ

私の家の近くには2つの大きな企業がオフィスを構えている。1つは電機会社で、もう1社は大手通信系の会社だ。両社とも、私の自宅から駅に向かう途中の同じ通り沿いにある。この前の夕方、駅に向かって歩いていると、あることに気がついた。電機会社のビルの外の片隅で45人の男性がたむろして話をしている。話は結構盛り上がっているのが遠くからでもわかる、なぜなら大きな笑い声が聞こえるからだ。気付かれないように、自分の身を少し乗り出して確認してみると、やっぱり喫煙コーナーだ。私は人事として、この会社は業績が良いと、直観的に判断した。それは、喫煙コーナーの雰囲気が良いのは会社の業績が良い時が多いからだ。

ご存じのように喫煙コーナーで交わされる話は濃い。私はタバコを吸わないのだが、会社の健康状態を調べる為に、たまに缶コーヒーを持って、喫煙スペースに行って様々な部署の人たちと話し込んだものだ。すると、会社の現状や人事上の問題などの噂?がかなりの正確性で話されているのにいつも驚かされていた。しかも、喫煙スペースは部署を越えた人間関係を構築するにはもってこいの場所だ。人事はこうやって経営側の戦略だけでなく、現場の声を拾っていく必要がある。そうしなければ、魂が入っていない人事制度・施策を作ることになってしまう。

そんなことを考えながら、駅に向かってまた歩きだすと、左手に大手通信系の会社のビルが見えてきた。そのビルの前にも56人の男性がタバコを吸っている。しかし、さきほどの電機会社と違い、喫煙スペース(広いので喫煙コーナーとはもう呼べない!)は広めなので、みんなある程度離れて立っていて、誰も会話していない。ただ静かにタバコを吸っている。なんとももったいない話だ、折角の人材交流の機会を逃している。会社は喫煙スペースを上手に設計すべきなのに、と思った。喫煙コーナーは、一日に数回様々な部署の人が集まって話し合える、数少ない場なのだから。

しかし、喫煙コーナーには問題もある。まず、タバコを吸わない人はこの輪に入りづらい。さらに、健康的ではないし、女性にはまずうけない。先進的な企業は、この喫煙コーナーの代わりを作る努力をしている。一日数回、様々な部署の人が集まれるスペースが喫煙コーナーの他に作れるか?トイレ?いやトイレで過ごす時間は短すぎる。そう、それは休憩室なのだ。

グーグルには各フロアに数か所きれいな休憩室が設けられ、そこにはお菓子や飲み物が自由に取れるようになっていた。ここで様々な部署の人が集まり情報交換が行われていた。人間はやはり対面でのコミュニケーションで強く結びつき、言語化できないニュアンスや文脈を理解する。こういう組織環境を意識的に作りこんでいくことは組織活性化につながる。デジタルだけでなく、アナログのコミュニケーションもまだまだ大事なのだ。

2011年6月21日火曜日

使える英語

楽天やユニクロが社内の公用語を英語にすることが話題になってから、しばらく経った。日経ビジネスの最新号に「使える英語」という記事が載っていたので、読んでみた。日本経済がシュリンクしていく中で、海外(特に新興国)に活路を見出さなければ、日本経済の更なる発展は難しい、そしてそのために「使える英語」が必須なのだそうだ。

韓国も1997年の経済危機までは、日本と同じように英語後進国で内向きだったが、その後グローバルで戦うことを決意してから全てが変わった。今の韓国人は、日本、中国、インド、そしてアメリカの事情に精通している。韓国企業のサムスンやLG等ではTOEICのハイスコアを全社員に求めており、LGの新入社員のTOEIC平均点は900点なのだそうだ。韓国の20代~30代は猛烈に勉強している、その理由のひとつは韓国には終身雇用がないからだ。

私が韓国で聞いたところによると、企業は40代~50代の人材を解雇し、その代わりに人件費が安く、新技術に精通し、しかも英語ができる20代~30代の人材を雇用しているとのこと。40代~50代になって企業から解雇される人は、他の企業への再雇用が難しいので、多くの人がフランチャイズビジネス(他に何をしていいか分からない)をはじめるらしく、社会問題になっているらしい。徹底した市場原理が働いているのだ。確かに私がリーダーシップ研修を韓国で実施した際も、若い韓国人の英語力は高かったように思う。

しかし、私は英語力より、日本人の内向き思考と外への発信力(伝える意思)の弱さの方が問題だと思っている。自分の考えを堂々と発言できる度胸さえあれば、ブロークンな英語でもグローバルでやっていける。そうやって外国人とのコミュニケーションを続けていれば、自然に英語力もあがっていく。グーグルにいる時、いつも冗談で言っていたのが、日本人の新入社員全員は数か月間、インドで英語研修させればよい。その理由は3つある。1:コストが安い。2:新興市場のインドを肌で学べる。3:インド人の訛りの強い英語が理解できれば、アメリカ人の英語はとても簡単に感じられる。グローバル化を目指す日本企業も試してみれば良いと思う。「使える英語」は実践の中でしか身につかない。


後談:インドに詳しい友人によると、実際IHIは6週間のインド滞在集中研修を2010年に開設し、英語力・異文化理解力向上を目指して社員を派遣しているとのこと。素晴らしい取り組みですね。

傾聴力の威力

私の大学院時代の恩師にGeorge Milkovich教授がいる。彼はCompensationの権威で、Total RewardsCash以外に職場環境や学習機会なども報償の一部として捉える理論)を提唱した。彼はCompensationが大好きで、どこに行っても「給与系」の質問をすることで知られていた。たとえば、彼が彼の娘と一緒に新しいスーパーに行くと、いつも「ここの給与はどうなっているの?」と聞くので、娘が一緒に外出するのを嫌がるようになったとか。やはり、そこまでのオタクじゃないと、彼ほどの一流の学者になれないのだろう。

私も彼を見習って、タクシーや美容院では「質問」と「傾聴」を多用して、コミュニケーションスキルの練習をすることにしている。今日、美容師から面白い話を聞いた。美容師という人種はどこに行っても人の髪型が気になるそうだ。「数か月ぶりのボサボサの髪で美容院に行った私を許せないだろうな」と思いながらも、「傾聴」を続けた。そして、彼曰く、吉祥寺、新宿、青山など場所によって流行っている髪型が明らかに違うらしい。組織文化じゃなく、その土地の文化も確かにあるなと妙に感心した。さらに、その人が何を注意してみるか(どんなフィルターを持っているか)は、その人の職業や個性を反映しているんだなと感じた。会社の所在地の文化が会社に影響を与えることもあるだろう。トヨタの本社は愛知県、日産はもともと銀座。愚直なトヨタと洗練されているイメージの日産。大阪のパナソニックと品川のソニー。これらの会社で働いている人達の髪型や服装も違うのだろう。そのような角度から組織文化を分析してみるのも面白そうだと感じた。

2011年6月18日土曜日

新時代の差別化戦略

想像してください。どこにでもある、人通りもまばらな寂れた商店街の一角。普段は誰も意識せずに通り過ぎていく場所。私の家の近くにもそんな場所があります。しかし、この前、なぜかたくさんの人が並んでいた。「こんなところに何かあったかな?」。興味を持ったので、近づいてみると23坪ほどのスペースのパン屋さんがあることを発見した、その名も「ときどき」。

ときどきしか店を開けないパン屋さん。つぎにいつ開くかはパン屋さんの壁に貼られた紙を見るしかない。しかも、パン屋さんが開いていない時は、店の看板も中にしまってしまう。だから、私もこの場所を毎日のように歩いていても、今までパン屋さんがあるとは気が付かなかったのだ。パンの種類は6種類しかない。アンパン、クリームパン、オニオンパン、揚げパン、チョコもちパン、そして食パン。さらに、1人が買えるパンの個数に制限がある。価格は決して安くない、ひとつ180円~300円ほどで、駅やデパートにある大手チェーン店と変わらない。しかも、時間はオーナーが決めるので、オーナーにとっては自由度があるし、寂れた商店街の一角なのでテナント料も安い。

このパン屋を見ていると新時代の差別化戦略が見えてくる。一言で言えば、世の中と反対の方向へ動くこと、つまり常識の逆を行くことで目立っているのだ。1:営業時間短縮。ほとんどの店は客がこようがこまいが、機会損失を恐れて長時間、店を開けておく。顧客が便利なように、朝早く、夜遅くまで店を開くが、その分、余計に人件費や電気代などの店の維持費が掛かる。2:少量生産(わざと入手を困難にする)。普通は、たくさんの商品を買ってもらいたいので大量生産するが、そうすることで、売れ残りが出てしまう。また、いつでも商品を買えるので、特にスペシャル感がなく、口コミが発生しづらい。「ときどき」では商品はとても購入しづらいので、商品を手にした時に、なぜかとても嬉しく感じる。商品も必要以上に生産しないので、全部売り切ることができる。3:目立たない場所に店舗を構える。人通りの多い場所に店を構えるのがパン屋さんの常識だが、人にわざわざ足を運ばせる、リピーターを作ることで小規模ながらビジネスが成立している。

まとめると、売り上げはある一定規模をこえないが(あまり売りすぎるとスペシャル感がなくなる)、コストを徹底的に削減する(営業時間短縮、人件費削減、テナント料削減)ことで、大手以上の利益確保に成功しているのだ。このようなモデルをチェーン化すると、逆に日本のシャッター街が活性化すると思う今日この頃である。

2011年6月16日木曜日

ヨドバシカメラから見える世界

5年前に買った東芝のドラム式洗濯機が「ピーピー」という巨大な音とともに壊れた。うちには服を汚すのが仕事の小さな子供が2人いるので、早速、妻と近くのヨドバシカメラに洗濯機を買いに行った。うちはあまり家電量販店に行かない。特に洗濯機があるエリアはニーズがなければまずいかない。それはみんな同じか 笑)エレベータでヨドバシカメラの3階にあがった。そこで見た光景はほぼ5年前と一緒だった。パナソニック、東芝、日立、三洋の洗濯機が所狭しに並ぶ。でも違いが全く分からない、全部同じに見える。つまり、消費者の目から見て差別化できていない。この前買った時から5年も経ったのだから各洗濯機の機能はかなり進化しているのだろうけど、正直良く分からないのだ。

しかし、5年前と違う点が幾つかあった。1つ目は、中国メーカーのハイアールのドラム式洗濯機とローエンドの韓国のLGの洗濯機が売っていたこと。2つ目は、店内放送が中国語になったこと。3つ目は、日本メーカーの洗濯機には大きなシールが張ってあり、それが「日本製」と書いてあったこと。「おお、いよいよここまで来たか」と思った。

この状況は、196070年代に日本車がアメリカ市場を圧巻していった時とうりふたつなのだ。アメリカのビッグスリー(GM,フォード、クライスラー)は、Made in USAを強調し、アメリカ人消費者の心を引き留めようとしたが、結局、低コストと品質改善を武器に日本の自動車会社が最終的には勝利した。同じことがここ日本で起きないとは断言できない。もし、日本市場を死守できたとしても、新興国での競争に負けたら、スケールでいつかはやられる。その意味で、パナソニックが新卒採用の8割を外国人にすると宣言した理由も見えてくる。日本人の採用にこだわっている場合ではない。世界からベストの人材を採用し、有効活用すべき時代なのだ。

洗濯機の買い物が終わり、エスカレーターを下に降りていくと、シリコンバレーを代表する企業のひとつアップルのi-Podのセクションがドーンと見えた。オーディオセクションの一番目立つ位置をアップルが占めている、つまりアップルの製品が良く売れているのだろう。その裏にソニーの製品が少し寂しげに並んでいた。これは大きな変化だ。ソニーがウォークマンの世界的大成功で作りあげた携帯音楽市場を「自分のCDコレクションを持ち運べるウォークマン」というビジョンを掲げたアップルが奪ったのだ。これはビジョン競争だ。ソニーはiPod/iPhoneを超える製品のビジョンを作らなければ勝てない。これは漸進的改善の世界ではない、破壊的イノベーションの世界だ。

日本はシリコンバレーのイノベーションモデル(ハイエンド)と中国の低コストモデル(ローエンド)の間でサンドイッチにされて身動きが取れなくなっている。


後談:三洋電機が白物家電部門を中国のHaierに売却することになった。日本企業のグローバル化はまったなしだ。


2011年6月14日火曜日

システムから外れた生き方

今日は国民年金への切り替えの為に市役所へ行った。市役所の職員は私の退職証明書をちらっとみて、「また、すぐに厚生年金に切り替えされると思いますが、手続きは会社でやってくれるので何もしなくて大丈夫ですよ」と言った。内心、「いやー。独立したので、しばらく国民年金なんですよ」と思ったのだが。日本には会社(システム)を外れるという選択肢がないことを実感した。また、システム内にいれば、何も考えなくても自動運転で進んでいく。

システムの外に出て、はじめてシステム内部の動きが見えてくる。内部にいると、人の発言や行動もシステムの影響を回避することは難しい。新入社員もすぐその組織の色に染まる。しかし、既存のシステムが機能不全に陥った時、新しいシステムに変更しなければいけないのだが、既存のシステムに慣れているとそれをわざわざ変えるインセンティブは働きづらい。システムを変えるにはリーダーが必要だ。そして、自分の人生を生きる、つまり人と違うことをしなければリーダーとは呼べない。今ほどリーダーが求められている時代はない。

逆に、シリコンバレーは会社を辞めて起業するインセンティブが働いている。常に新しいことにチャレンジすることが奨励され、失敗に対してとても寛容だ。周りを見れば、ベンチャーを起こして一山あてた人がゴロゴロいる。お金を出してくれる投資家もいる。仮に起業がうまくいかなくても、次の採用面接ではチャレンジ精神を買われ評価対象になるのだ。私がシリコンバレーのパロアルトあたりの市役所に行ったら、「会社を設立されるのですね」と言われたんだろうなと想像する。

私がグーグルを退職した訳

グーグルを62日(私の39回目の誕生日)に退職し、コンサルタントとして独立した。

多くの友人や同僚は、なぜ私がこのタイミングでグーグルを退職するのかを、理解できなかった。
私も特に会社に不満があった訳ではない。毎日、アジア太平洋地域各国で楽しくリーダーシップ研修を教えていた。311日に東日本大震災が起きるまでは。

ちょうどこの震災の発生時、私はシリコンバレーに出張中だった。CNNニュースが繰り返し流す津波の映像を見ながら、人生の有限性を強く感じた。震災の翌日、グーグル本社の広大なキャンパスを1人で歩きながら、「自分のやりたいことは何?」「自分が貢献できることは何?」を自問し続けた。そして、グーグルを退職し、独立すべきだという結論に達した。その理由は、コーネル大学で学んだ人材マネジメント及び組織行動学の理論とGEやグーグルといったグローバル先進企業で得た実践知を多くの人に紹介することは意味のあること(世の中に役に立つ)ではないかと感じたからだ。

今その最初の一歩を踏み出したところ。

このブログは2つのテーマを扱う予定です。
1:私が日々考えていること・行っている活動を紹介する。
2:身の回りの出来事(日常の疑問)を人材マネジメント・組織行動学のフィルターを通して分析する。